脇役さん

 私は少女漫画の脇役。名前はない。苗字はあったけど単行本1巻以降登場人物欄に掲載されてないから忘れてしまった。まったく物語の進行にさしさわりのない、ただの壁紙。それが脇役。
 けれども脇役だからこそ重要な役目があるの。それは物語が盛り上がる次のエピソードまで波風立てずに繋げるきっかけを作らなければいけないということ。連載漫画にとって続投か打ち切りかは編集部さんと読者さんのファン投票に左右されるもの、次のエピソードで新たなイケメンキャラの登場というテコ入れが用意されているものの、資料やストーリーの構築等作者の都合で何話か読みきり感覚の軽い話を用意しなくてはいけなくなってしまった。そこでなんの味も匂いもない私がさりげなく話を無難に且つ安全に進行させる必要がでたというわけよ。
 今回の任務は少女漫画の大抵の舞台が首都圏のように、普通の中学生の主人公達を某巨大ネズミーランドに連れて行くということ。けれども大変なのは彼らが公式設定では普通の中学生とか言いつつ、いつのまにか過去アリやら因縁アリやら心の闇アリやらな面倒なキャラになってしまったということ。最初は三角関係だったのに、今では多角形よ。連載一話目から登場している私ですら、もはや登場人物相関図が把握できなくなっているわ。

 第一段階はさりげなくみんなで遊びに行こうと提案すること。朝の時間に主人公に探りを入れていたから、あとは初期段階で登場済みの本命と当て馬Aを話に誘い込むことね。奴らが来れば、恋敵たちもついてくるから、どんどん大所帯になっていくことでしょうね。 そうすればドサクサにまぎれてファン投票で上位にいるイケメンだけど本編とはまったく関係ない先輩キャラとかも乱入してくるに違いないわ。
 とりあえず主人公グループに私が所属していて、本命と当て馬Aともつるんでいるという位置関係は助かったわ。昼休みの時間にでも切り出してみましょう。ほらチャイムが鳴った、第二段階に以降よ。

「こんどの週末連休じゃない、久々にみんなで遊びに行かない?」
 私は無難に話を切り出したわ。場所は屋上。現実の世界では立ち入り禁止の屋上も漫画の世界では簡単に出入りできるくせに人が寄ってこない聖域なの。この場所でおなじみのメンバーが集まるのはおきまりのパターンよ。
 すでに主人公は買収済み、あと主人公の友達とか男共のパシリとかにも話は通してあるわ。この場で事情を知らないのは本命と当て馬Aのみ。奴等のスケジュールだって把握しているんだから。知っているのよ、連休は休みだし、アンタ達だって理由つけて主人公と遊びに行きたいってことはね。さあ、この話題に喰らいついてきなさい!
「うっ」
 突然、本命がうめきだしてしまったわ。
「しまった醤油の入ってない卵焼きにはトラウマが……」
 トラウマスイッチかよ!
 なんてこと、今は裕福だけど昔は極貧生活を送っていた本命のトラウマがオンに切り替わってしまったわ。そうなったら本命の周りには思い出したくない過去の傷オーラが取り巻いてしまうの。私みたいな脇キャラはトーンもしくはベタに埋もれて消えてしまうわ。誘うなんてレベルの話じゃない。
「しっかりして、本命くん。私の卵焼きは醤油どころか砂糖すら入ってないのよ」
「ボクの卵焼きはきちんとした出汁巻きだよ」
 すかさず本命君を励ます主人公。そこはさすがね、単行本の表紙を貼っているだけあるわね。そしてこの場の安定を図るために己の卵焼きを犠牲に出すパシリ。その抜け目ないところがファン投票で確実に一票を得るポイントというワケね。パシリの出汁巻きで本命のトラウマモードは収束しつつあるわ、彼らを買収してよかったわ。とにかくも話を進めなきゃ。
「ネズミーランドでね、イベントがあるんだけど……」
「うっ!」
 今度は当て馬Aがうめきやがった。
 貴様はトラウマとか関係ないキャラだろうが。喉詰まらせただけだろう、黙って座ってろやなんてツッコミを入れたいところだけれども私は脇役だから黙っているしかない。
「オレ、プチトマト見るとトラウマが……」
「んなワケねーだろ!」
 そう叫んで屋上の貯水タンクから人影が飛び降りた。そのまま当て馬Aの上に落下し、食事中だというのに白煙を撒き散らして大コマで登場。
 あ、当て馬Bだ。ちょっと不良キャラだから屋上で授業サボってたって設定で誤魔化すつもりね。この前のエピソードから姿見せてなかったから、前回出た時からずっと屋上にいたのかしら。不良って設定もかわいそうだわ。そうね、向こうから出てきたならこの場で誘ってしまうのもテかもしれないわね……。
「テメーは何好き嫌い言ってんだ。俺はこれでも園芸部なんだよ、トマト馬鹿にする奴はしばくぞ、コラ」
「なんだとコラ、喧嘩なら買うぞ。サッカー以外無しだけどな」
 当て馬Aは体育会系だからスポーツで勝負を決めたがるの。でもこのままじゃ当て馬A・Bもろとも戦いに行ってしまいそうよ。なんとしても彼らを止めなければ。彼らの勢いをネズミーランドに向けさせなければ。でも私は脇役だから長いセリフは説明以外言っちゃダメなの。どうしたらいいの、この状況。
「騒がしいね。まったくこれだから煩いサルは……」
 日光にキラリと光る眼鏡。こんな所で当て馬Cの登場よ。メガネキャラってだけで票を貰っている羨ましい奴だわ。足元にはカムフラージュ用の床柄シートが転がっているわ。 昔のギャグ漫画みたいに壁と同じ柄の布で自分を隠すという戦法ね。考えが古いわねメガネ。
「静かにしてくれないか。病弱という理由にかこつけて、実際には引きこもり生活をしている僕が久々に学校に来て、こうして屋上で日光を浴びているんだ。貴重なセロトニン生成時間を無駄にしないでくれ」
 眼鏡キャラだからって無駄に長いセリフを使いやがって。畜生、この男当て馬じゃなかったら……いいえ、私怨は捨てるのよ。今は私は彼らをネズミーランドに誘うことが目的。
「久しぶりね、引きこもり君。こうしてみんな集まったことだし、今度の連休にネズミーランドにでも言ってみない」
 言った。ついに最後までセリフを言い切ったわ。あとは皆の様子を見るだけ……って、誰も人の話聞いてないじゃない!
 本命くんのトラウマ処理に主人公とパシリと主人公の友人はかかってるし、当て馬A・B・Cはお互いににらみ合ってて、人の話を聞く余裕なんてない。というか、この場で孤立しているのって私だけ? 何、この疎外感。ものすごく、壁になりたい。私は貝になりたい。

 突然、バーンと屋上の扉が開いて、ズカズカと大きな影が入ってくる。また当て馬かよと私はウンザリした目を向けたけれども、そこにいたのは違う人物だった。着古した赤い運動ジャージ、素足に健康サンダル、首には洗っていないタオルと笛。
「さあ、今日も俺の健康サンダルを日干しにするべ」
 屋上にやってきたのは私たちの担任の国語教師だった。
「ん? お前ら、なんでこんな所にいるんだ。確か屋上は立ち入り禁止だった筈じゃあ」
 しまった! 教師という絶対権力を忘れていたわ。ここで解散させられたら、本命どころか当て馬A・B・Cに個別に話を申し込まなければいけないじゃないの。
「奇遇ですね。ここで脇役さんと親睦会の打ち合わせをしていたんですよ」
 当て馬Cのメガネがさりげなく嘘をつく。奴はメガネの縁をクイっと押しながら、私に早く話を進めろを合図をした。このメガネ……只者ではない。当て馬としての役割を心得てなおかつ、自分の出番を計算している。さらに好感度アップすらも狙っているということね。今は力を借りるけれども、もし敵にまわったら厄介なタイプだわ。
「親睦会って、もう二学期終わりだろ」
「僕、病弱だからあまり学校に来れないんです」
「あ、俺はこの前の大会で優勝したお祝いを兼ねて皆で騒ぎたいなと」
「ちなみに俺は園芸の手本として植木●ッキーを鑑賞したく」
 今まで反目し会っていた当て馬達がそろって担任に言い訳を畳み掛けた。メガネと体育会系の当て馬はともかく不良は素のような気がする。●ッキーの植木ってマニアかよ。なんのための不良キャラだ。ともかくも先生という脅威の前に対立していた当て馬達は手を取り合うことにしたようだわ。これなら安心ね。
「そういえば家の後継者争いでゴタゴタしていたから、皆と騒ぐのもいいなあ」
 今までトラウマモードで落ち込んでいた本命がやっと復活して、バックにトーン張りながら話に乗り込んでくる。というか後継者争いって本編でやってたっけ? なんか聞いてないんだけど。ちょっと後でチェックしとかないと、このままだと脇役という地位すら消えてモブキャラになってしまうわ。
「そうかあ、みんなで遊ぶことはいいことだぞ」
 体育会系教師の姿格好と同じく担任はニコニコと笑って健康サンダルを屋上の手すりに引っ掛けていく。どうやらこれ以上詮索するつもりはないらしい。
 サッと不良が手旗信号を送ってくる。続きは教室で……ってお前、クラス違うだろうが。ついでに誰も手旗信号なんて解読できてねーよ。何の踊りしてんだって顔してるだろうが。 それから誰も合図受け取ってくれないからって無駄に傷ついた野良犬のような表情をするな。その顔は今ここで使うものじゃない。
 ああ、私は脇キャラだから話の主導権を握ってはいけないの。あくまでも誘導であって、話のおつまみに登場するみたいな、ふりかけ的存在なの。誰か話を進めろ、私じゃない誰かがさっさと舵取れ。
「じゃあ、続きは図書室でしようか」
 オイ、コラ。メガネ。図書室は静かにするもんだろうが。
「いや、体育館で」
 バスケ部が練習してるっつーの。ボールとシューズの音でロクに会話聞き取れるか、この脳まで筋肉の体育会系が。
「じゃあ、今から僕の家で打ち合わせをしよう」
 話が進むのは嬉しいけど、それは授業放棄だよ本命君。気づいてないでしょ、君、天然だからね。さっきの言葉に教師が反応してるんだよ、トラウマという地雷を持ちながら、気づかずに自分自身で地雷踏んでるのよ。
「もう、皆だめだよ。ちょうどいい部屋があるじゃない。ホラ校長室」
 主ー人ー公ー!!
 おまえ、もう、降りろ。本命に便乗して天然っぽい意見出したつもりだろうが黒いのミエミエだよ。いや、黒くないと多角形人間相関図の中心点に位置できないか。やっぱコイツで妥当か。あ、でも校長室はまずいよ。やばい、心の中で突っ込んでて、主人公のボケにツッコミ入れるの送れた。
 どうするコンマ4秒の沈黙は痛い。いまさら何か話を入れようにも、主人公のセリフに対しての突っ込みには遅すぎて、新しい提案を出すにしてもこの流れだとボケるしかないし、もう4秒たってるから何をしても遅い。ヤバイ、次の一手が足りない。何か、この状況を打破できるものは……。
「ところで先生はどうして健康サンダルを干してるんですか」
 主人公、自分で活路を開いたか。でも、多分男共にとっては放置プレイだよ。ああSだ。 この女、間違いなくSだ。しかも何事もなかったかのように先生に話を振りつつ、体はもう屋上を出る姿勢に移行している。先生すらも放置プレイにするつもりか。
「先生は水虫だから、健康サンダルを履き替えているのさ。そして日光表毒しているんだよ」
 ああ、こんなところでカミングアウトしやがった。これでも担任の顔は整ってるんだぞ。作者がオッサン顔の描き分けが出来ないからって、微妙に整った汚いオッサン先生になってるんだぞ。さりげなく大人キャラとして票が入ってるというのに、ここで水虫宣言か。哀れだ票を逃したな。
「先生、水虫歴長いんですか」
「かれこれ10年くらいの付き合いかな」
 いや、先生の見た目は20代だから、10年の付き合いとかおかしいよ。いくら作者の画力がないからって20代に見える30代は無いでしょう。
「10年前……あの頃は貧乏だったな……」
 ああ、本命、オマエまたトラウマスイッチ入ったのかよ。そんな所で勝手にトラウマモードに入るんじゃない。しまった本命へのフォローで主人公とパシリが行動不可能になっちまったじゃないか。本命のトラウマをケアできるのは、あの二人しかいないんだよ。
 これは脇役の立場を逸脱しても、屋上から退避するしかない。
「早く、水虫治るといいですね。じゃあ、私たちは教室に戻りますんで」
「……この水虫は治しちゃいけない水虫なんだよ」
 ええー! 話続けるの。ちょっと、脇役だからセリフ続けちゃいけないんだよ。誰か会話代わって。先生との会話を適当にこなして、サラっと話を本題に戻して、ついでにネズミーランド行きの予定を決定させるようなテクニックを。国連常任理事国の拒否権みたいな権力、誰か持ってないの?
 体育会系はダメだ、こいつバカだから。メガネは、メガネ落として探してる。メガネ落としてる間はコイツ使えない。不良は手旗信号が通じなかったことにスネて斜めに構えているよ。そういや主人公の友人は何やってんだ……ってケータイかよ。話そっちのけでケータイでメール打ってんのかよ。ちょっとは協力しろよ、テメーも脇役だろう。
「足の裏、お大事に……」
 なんだか全然纏まりのない一行を引き連れて、どうにか屋上のドアノブを回す。すると扉の前には見知らぬ女性と男性がたたずんでいた。
 え、この人達、誰? 新キャラ?? 聞いてないよ。
「……そうだったの、貴方の水虫はあの時からずっと」
「貴女は!」
「おふくろ、なんでこんなところに」
 驚いた顔をしたのは担任と不良。どうやら女性は不良の母親らしい。とすると男性の方は……。
「おとうさん、どうしたの?」
「やあ、仕事クビになってヒマだからPTA活動に参加してるんだよ」
 主人公の父親か。今まで全然登場してなかったけど、イロイロ大変だったんだね。明らかに作り物の髪の毛してるもんね。
「PTAの会合で学校にお邪魔していたんです、それでちょっと息子を探しに屋上に向かったら貴方が居て……。10年ぶりですね。まさか担任になっているなんて」
「私の足の裏は、あの時から水虫菌の寝床のままです」
「こんな形で再会するなんて。あなたは水虫のまま変わっていないのね……私はもう。いいの、あなたが水虫で良かったわ。また逢えてうれしいのは本当の気持ちよ」
 そう言葉を残し、女性は立ち去っていく。その背中をなんとも言えない目で見送る担任。 不良にいたってはスネた表情のまま固まっている。どういうリアクションを取ればいいのか分からなくて思考回路がショートしたようね。
 ともかくもなんだ、この昼ドラのような空気は、ものすごく居たたまれない。この場所から逃げ出したいけど、金縛りにあったように体がうごかない。
「ま、まさか、君は10年前に私が……」
 今度は主人公の父親が勝手に話を進めているよ。
「大変だ、君は私の息子かもしれない、というか君たちは兄弟かもしれないような気がしてきた。なんだか私に似ている。特に髪型が」
 主人公の父親が食い入るように見つめているのは本命だ。ここで昼メロネタか。しかもベタベタのド直球モードかよ。
「大丈夫ですよ、僕はお父さんが沢山いるから、きっと気のせいですよ」
 空ろな目で本命が答えている。ああ、トラウマに負けてばかりの本命だけどやる時はやるんだね。がんばれば苦労を乗り越えられる子なんだね。
「いや、でも髪型がそっくりじゃないか」
 純度100パーセントのヅラで何をいってるんだ。早く退散しろ、この屋上の変な空気を変えてくれたのは有難いが、もうおまえの出番は無い。
「もう、お父さん、恥ずかしいから早く帰ってよ」
「そんなこと言ったって、少女漫画じゃお父さんのポジション低いんだよ。こうでもしないと出番ないじゃないか。少年漫画だったら超えなければいけない壁にでもなれるけど、少女漫画じゃリストラされるか借金つくるか隠し子ぐらいしか出番ないんだもん」
 主人公に背中を押されてしぶしぶお父さんが退場していく。ああ、なんか変なの乱入したけど、とりあえず教室に引き下がって話を続けるか。昼メロの空気は薄れたし。これでようやく話が元に戻せそうね。
 そう安心したときだった。
「――最近の少女漫画はちょっと過激じゃないと読者が食いついてくれないからな。あと少女漫画で売れなくなったらレディコミに転向しようと作者が考えているから今の内からドロドロの練習をしているんだよ」
 フウとタバコをくわえながら担任が空を見上げてつぶやく。彼はもはやこの場の崩壊しか考えていないカオス因子だ。おそらくは私たちを屋上にとどめて話を進ませない腹積もりのようね。
「俺にも一本くれや」
 不良にタバコを渡し、担任は灰色の煙を吐き出した。教師だろと突っ込めないのは担任の背中にやさぐれた空気がみなぎっているから。
「オイ、脇役。おまえな一巻以降下書きの段階から作者手を出してない。おまえの作画は作者のダチのユキちゃんっているだろ、OLの。あの子がやってる。ユキちゃんの担当はお前と主人公のペットの不細工な猫な」
 教室崩壊ならぬ、担任崩壊だ。担任が過去の何かに遭遇して人格が壊れちゃった。や、ヤバイ。なんかもう私ではフォローできない領域に達している。
「ちなみにユキちゃんは付けペンが使えない。よっておまえだけ油性ペンのハイテック●0.5ミリだ」
「で、でも付けペンのような筆感が……」
「それはユキちゃんの特技が油性ペンで付けペンっぽい書き方をするしかないからだよ。トーンもベタもカケアミも集中線も背景もユキちゃんはできないけど、付けペンっぽい筆感でオマエと猫を描くことだけはできるんだよ」
 ああ。知らなかった。みんなと私は違うって思ってたけど、もはやペンから違うなんて思いもしなかった。そんな、そんなことって……。
「私もアシさん任せだったけど、一応カブラペンだから。……でも作者は丸ペンだから、さ」
 そっと主人公の友人が私との間に越えられない亀裂を刻んでいく。最後の一言は哀れみなのかしら。畜生、ユキちゃんは漫画家志望じゃないんだ。作者のアマ時代にお手伝いしてた古い友人なんだ。そんな、そんなただのOLに私の存在すべてが任されていたなんて。
 もう、目的も何も失っていた。何もかもがどうでもよかった。会話についていくことさえ放棄して、この屋上にはダラけたカオスが蔓延する。わかっている。この状況を打破しなくてはいけないということも。けれども、私の心には勇気なんて、もう湧いてこない。だって脇役なんだもん。出番作っちゃいけないんだもん。さりげなく話を誘導するしかできないんだもん。
 畜生、なんかわからないけど、太陽の馬鹿やろう!

「あなたたち、わたくしに黙って楽しいことを考えているなんて、どういうつもり!」
 ズゴンと屋上の扉が開かれ、私は押しのけられる。
「わたくしに黙って連休にネズミーランドに行くなんてひどいわ。許せないわ。今すぐ予定を教えなさい」
 床に転がった私をよそに、新たな侵入者は耳に障る甲高い声を出した。ペン先ショックで朦朧した頭には耳障りな声だ。
「提案者はあなたね脇役。でも立場上、私が殴りかかるのは主人公と決まっているのよ」
 なぜか私ではなく主人公の襟元をつかんで、計画を話せと脅す人間。そうだ、彼女の存在を忘れていた。というよりも放っておいても、勝手に付いてくるだろうと予想していたのだ。
 彼女はツンデレ系ライバル。他にもロリ系とか本命の従兄弟とか、いろいろライバルはいる。彼女は序盤から出てきて、いまだにがんばっている古株である。
「いや、話がまとまってなくて」
 ツンデレには天然で対応するしかない。わきまえているのか主人公は、どことなくぼや〜っとした苦笑いで言い逃れをする。もう話を進めるのは私の役目じゃない。主人公、後はお前に任せた。
「正直に言いなさい。ネズミーランドに行きたいんですの? それとも行きたくないんですの?」
 ツンデレ系ライバルの言葉に、屋上にいる一同全員が疲れきった顔をして「行きたいです」と答えた。
 こうして私の任務は終了した。本編じゃたった4ページちょっとの出来事なのに、とても疲れた気がする。できるなら、もう脇役なんてごめんだ。さっさと「その他大勢・クラスメート」にクラスチェンジしたい。
 もし、生まれた環境を変えることができるなら、願いがひとつかなうなら、私はこう答える。
「点描でいいです」と――。



お粗末さまでした。
 恋愛小説書ける人尊敬します。自分には無理な領域だ。大体これ小説じゃないよ。一年ぶりに小説っぽいもの書こうとして出来上がったのがコレか……涙すら出ねえ。