序盤で死ぬ仲間の主張

俺としたことが、こんな所でヘマをするとは思っても見なかった。
幸いなことに敵――俺達を追って来た刺客を追い返すことはできた。
止めを刺すまでに至らなかったのは俺の腕が鈍っていたからなのか、それともヒヨっ子のお荷物二人を抱えているからなんだろうか。
ともかくも、もう痛みの感覚が遠くなっていることから、命の灯火が消えかかっている事だけは無学な俺でもわかる。

できれば静かにジジイになりながらベッドの上で息を引き取るなんて終わりを期待していたのだけれども、現実は森の中でのたれ死ぬという、実に流れ者らしい終わり方だ。
悲しいかな先程の戦いで毒を受けたせいか、どうも声が出ない。
森の中でヒヨっ子二人を放り投げてしまうのは申し訳ないのだが、俺にはもう守ってやることができないのだ。
涙を流して俺の名を呼ぶのは、赤ん坊のころから面倒を見ていたヒヨっ子の片割れ。
もう一人はといえば、実にムカツクことに何の表情も動かさず、ただ目の前の現実が「人の死」というものなのだと学習中らしい。
ビービーと泣く方が男で、顔色一つ変えないほうが女。刺客の狙いは女だったらしい。
らしいと、曖昧な表現しかできないのは、女が記憶を失っているからで、俺とヒヨっ子とが見つけて一週間と共に過ごしていないからかもしれない。
俺は自分を死に追いやった女が何者なのか、本当の名前さえ知らずに死ぬことになるんだ。
ヒヨっ子の方は勝手に名前を付けて呼んでいるけれども、この女の正体が不明なのは未練が残る。
いや、本当はヒヨッ子にも伝えなければいけない事があるんだ。
コイツの両親のこととか、どうして田舎の村で俺が面倒をみていたのかとか、いずれは明かしてやらなければならない秘密なんてものが沢山あったんだが、麻痺した口がうまく動かない。
どうしたものか。俺は昔馴染みに隠し事をしたまま旅立っちまうことになっちまう。
せめてマトモに戦えるぐらい鍛えてやればよかった。
もう少し稽古を厳しくしても大丈夫だったのになと、後悔ばかりがこみ上げて来る。
本当にイロイロと伝えたい事は沢山あるんだ。
もっと助けになりたかったし、そばで成長を見ていたかった。
それなのに、どうして俺は終わっちまうんだ。
見上げた空は残念ながら鬱蒼とした森の木々に遮られて、僅かな光しか確認できない。
「この森を抜けた先に町がある。酒場で仲間を集めろ」
それが俺が言えた精一杯の言葉だった。
本当に残念だ。あの時ヒヨっ子の言葉に従って装備を全部外さなければ。
せめて武器ぐらいは持たせて貰えればなあ。
俺の槍を売れば魔法書が買えるって言う事聞かなかったもんなあ。コイツら。
でも、村で買った魔法書も掘り出し物の武器もお前らのレベルじゃ扱えない代物ばかりだぜ?
まったく買い物すら下手なのに、町で人なんか集められるのかね。
まあ、回復薬はたくさん買ったから大丈夫だろう。残金が一桁になるまで道具屋で粘ったもんなあ。
ああ、本当に、俺の武器を売っぱらってさえなければ、素手で刺客と戦うこともなかったし、あの木の盾が在れば毒の攻撃だって防げたわけで……。
本当に油断大敵ってこういう事を言うんだろうな。
ああ、本当に俺ってついてないよ。

なんだか女の方が口をパクパク動かしてるな。こんな無感動な押しかけ女でも俺に手向けの言葉でもくれるのか?
ん?「サッサとクタバレ、体力バカ」。
いやいや、いくらなんでも死ぬ人間にそんな言葉をかけないよね。
一週間も生活してたんだし、おまえ等を敵から守ってたの俺だしさ。
そうだろ、ヒヨっ子一号のガキよ。
「あー、早く逝っちまわねえかな、コイツ無駄に長生きしてるな。トドメ刺すか」
えええええ!
それ、何。お前と過ごした十数年は何だったの。
「経験値入らねえの? 本当に盾以外に使えねえボンクラだよな。
まだ意識あるけど先進みてえよ。こんなんムサい男の最期になんで時間かかるんだよ」
っちょ、お前っ。
何だ、その暴言は。
もういい。いらねー。
お前らのこと何か知らねえよ。この先、どんな人生のトラップに引っかかろうが関係ねえよ。
だって俺死ぬし、もう責任見る必要ないし。
一緒に暮らしたとかいっても、血のつながった家族じゃないしね。
この大陸のマル秘情報とかコネとか知ってたけど教えねえ。
自力でどうにかするこったな。両親のヒントとかあったけど、それも教えねえから。
とりあえず、俺の目の前から消えろ。
「……俺のことはいい、先を急げ」
そんな気持ちをこめてつぶやいた言葉に、ヒヨッ子二人は涙を拭きながら立ち上がった。
霞む視界に映ったのは、小さな体にでっかいマントやブカブカのローブを羽織った、駆け出しの戦士達の姿だった。
その先にどんな苦労があろうとも、もう俺は心配なんてしない。
彼らなら大丈夫だ。
というか、どうなろうが知ったこっちゃない。
俺はさっさと成仏するぜ、馬鹿野郎。
ほら、俺の目の前にスッポンポンのチビ天使が降りてきたじゃないか。
あばよ。クソガキ共。せいぜい、地上で冒険しやがれ。

おしまい。

あとがき  ありがちなRPGネタで序盤で死ぬシチュエーションの仲間を主人公にして、何か短い文章でも……と。
 実は毒じゃなくて、石化の魔法を掛けられただけで、ゲーム終盤になってからパーティーに復活するけど、ものすごく邪魔者扱いされるというシチュエーションも考えてみた。
 が、面倒なのでやめておく。
 自分以外のキャラが秘密持ちだったヨーとか、年長なのにレベルが一番低いとか、レベル上げのために戦闘に出してもらっても敵の攻撃ですぐ死んで復活させてもらうのでパーティー内でとても居たたまれないとか、そういう感じのものを妄想してました。